株式会社PMC 外国人雇用ドットコム 

(株)PMCは厚生労働省・法務省に指定の外国人技能実習制度における養成講習機関です。

第5回 退職願いは撤回できる?

いったん提出した退職願いの撤回は可能なのでしょうか?
例えば、Aさんが週末に直属の上司(B係長)に退職願いを提出しましたが、
休みの間によくよく考えた結果、やはりこの仕事を続けることにしました。

この場合、一度提出した退職願いは無かったことにできるのでしょうか?


雇用契約は、申込と承諾の二つの意思表示が合致したときに成立しますが、
雇用契約の終了場面ではどのようになるのか、まずは確認したいと思います。

大きく分けまして、以下の二つのケースが考えられます。

<1> 労使双方の意思の合致による場合(合意退職)
<2> 一方の当事者の意思による場合(労働者→辞職・使用者→解雇)

このAさんの退職願いを、合意退職の申込みの意思表示とするか、あるいは
一方的な退職の意思表示とするかは意見の分かれるところではありますが、
一般的に労使双方の円満な雇用契約の解消を前提として考えますと、この
退職願いは合意退職の申込みであると言えます。

ただ、いずれのケースにおきましても「その意思表示が相手方に到達している
と評価できるかどうか」がポイントになります。

仮に、Aさんの退職願いが未だB係長の手元にあり、社長や人事部長など人事権
を有するしかるべき方に渡っていないのであれば、どうでしょうか?

判例では、退職願いを受け取った者が退職の意思表示の受理(退職の承諾)する
権限を持つかどうかで判断が異なります。B係長には自身の判断によりAさんの
退職を承諾することはできませんので、この場合は単に退職願いを「預っている」
に過ぎないことになります。

また、当然のことながらAさんの退職願いに基づく人事決済など、使用者として
何からの承諾の意思表示が発信(到達主義の例外)されていないことも明らか
ですので、退職の意思表示そのものが到達していないと評価できます。
(白頭学院事件)

ですので、この時点ではAさんの退職願いの撤回は可能であると言えます。

一方で、直接人事部長に退職願いを手渡し、それを人事部長が受け取ったこと
(受領)が、退職の意思表示への承諾の意思表示とされ、その後の退職願いの
撤回が認められなかったケースもあります。(大隈鉄工所事件)


このようなケースにおいてトラブルを避けるには、

<1> 退職願いの取扱いに関するルール、とりわけ退職願いの承認権限など
    人事権がどこにあるのか、その所在を予め明確にしておくこと
<2> 退職願いが単なる「預り」ではなく、正式な受理・承諾であることの
    記録を残すこと(日付入りの決済者印の押印など)

そして実際に退職願いが提出された場合には、速やかに稟議に回して決済が
下りた旨を本人に伝えることが重要となります。
※承諾は発信のみで足りますが、やはりきちんと伝える必要はあります。


実務的には、退職願いの受理後の撤回について、当事者間の合意があれば実際に
行われているケースもあるかと思いますが、無用なトラブルや当事者以外への
波及的な混乱を避けるためにも、原則を理解した上でその取扱いに関するルール
や手順をしっかり整えておく必要があります。

第4回 勘違い

使用者と労働者との間で最もトラブルになり易いケースとして、おそらくこの
勘違いによるものが多いのではないでしょうか。知らなかった、きちんと伝えて
いなかったが為に、結果として様々なトラブルが発生してしまいます。


勘違いとは、法律用語では「錯誤」といい、表示行為に対応する意志
(内心的効果意志)が存在しないことを表意者が「知らない」で行う意思表示
のことです。一般的に、なんらかの誤解に基づいてなされた意思表示を言います。

「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする」
(錯誤:民法95条)

この場合の要素とは、その錯誤が無ければ、その意思表示はなかっただろうと
考えられるほどの重要な部分のことです。

ただ、いかに「勘違い」とはいっても、意思表示の相手方としては、表意者が
錯誤に基づいて意思表示をおこなったものかどうかまでは当然知り得ません。
(本人ですら気付いていないのですから。)

ですので、極めて些細な勘違いについてまで表意者が保護されるとするのは、
逆に意志表示の相手方の保護に欠けることになってしまいます。

そこで、心裡留保と同様に続きがあります。

「ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を
主張できない」(錯誤:民法95条 但し書き)

この場合の重大な過失とは、通常一般人に期待される注意を欠くような程度を
指します。

雇用契約において、意思表示の無効や取消しに関わる問題は、雇用契約の終了時
に頻発します。過去の判例でも、退職を勧奨するケースや分社化や営業譲渡に
よる転籍を促す場合などに多く見られます。双方が核心となる部分を避けて
うやむやにコトを進めてしまったが為に、後々になって、聞いていたのと違う
ということでその無効や取消しを主張されてしまう訳です。

雇用契約の成立から終了まで、現実の生活の中でその契約が有効かどうかなど、
特に意識することはないかと思います。ただ、ひとたび契約の当事者の一方が
約束を果たさなかったり、内容について双方の認識が違ったりすると、途端に
争いとなってしまいます。

意思表示とは双方向・お互いがあって初めて成り立つものですので、
まずは双方の意図するところをきちんと理解出来ていることが大事です。
その上で、どのような契約内容を有効に形成させていくか、というところへの
配慮が必要となります。

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また詳しい詳細は厚労省のHPをご確認下さい。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000198638.html

第3回 意思表示の効力発生はいつ?

雇用契約は法律行為の一つですので、申込と承諾の二つの意思表示が合致した
ときに成立します。

では、どの時点で二つの意思表示が合致したものとするのでしょうか?


「働きたいです(申込)」「いいですよ(承諾)」という会話がなされた時点で
雇用契約が成立するとお話しましたが、仮にこれを文書等でやりとりした場合
どうなるのでしょうか?


例えば、採用予定者が直接会社を訪問し、面接の結果、使用者がその場で
採用を決定した場合は、その場で申込と承諾が行われたことになりますので、
契約は何の問題もなく成立します。

ところが、当時者が離れた場所にいて文書等でこれらのやりとりをする場合は
タイムラグが生じますので、雇用契約がどの時点で成立するのか重要な問題に
なります。

民法は、これに対して「到達主義の原則」を定めています。

「隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を
 生ずる」(民法97条)

では、どのような状態を「到達」とするかについては、判例上、意思表示の
書面が相手方の郵便受けに投函されたり、同居の家族などがそれを受け取るなど、
その文書の存在を知ることができる状態にあることを指します。

ここで重要なのは、相手方が知ることができる状態(了知可能)であれば、仮に
内容を確認していなくとも、到達があったものと評価されます。

従いまして、法律効果を伴う重要な文書が、「配達証明郵便」等にてやりとり
されるのは、相手方にその文書が到達しないケース(郵便事故など)を防ぎ、
確実に配達(相手方に到達)したことを証明してくれるサービスだからです。


このように、意思表示の効力発生について「到達主義の原則」がありますが、
この原則に例外があります。

それは、承諾についての「発信主義」です。(なんだかややこしい話ですが)

「隔地者間の契約は、承諾の通知を発したときに成立する」(民法526条)

承諾について発信主義を採るということは、申込の意思表示に対する承諾の
意思表示が、何らかの理由で申込者に到達しない場合であっても、契約は有効に
成立していることを意味します。

不思議な話ですが、民法はこの例外を認めており、申込よりリスクの少ない
承諾について発信主義を認めることにより、契約の早期成立と法律関係の安定を
望んでいるからなのかと思います。


このように、民法において契約成立の原則が定められていますが、時代の変化や
通信機器の発達により、意思表示の方法も多岐多様になってきています。

転職サイトを通じての募集やメールでの採用決定通知の発信など、国や地域を
越えてボーダレスに人材募集がなされる場合、果たしてこの民法における
「遠隔地」の定義がそのまま当てはまるケースは稀かと思います。

通販サイトでのショッピングが一般的になるにつれ、電子契約法(電子消費者
契約及び電子承諾通知に関する民法の特例)が整備されるなど、より円滑な
契約成立に向けての動きもあります。

雇用契約は、まだまだ「契約」という側面が希薄なだけに、民法の一般原則を
参照するしかありませんが、今後労働契約法などにおいて、その内容だけではなく、
成立過程についても順次整備されていくものと思われます。

第3回 外国人留学生

早くもこのシリーズが第3回となりましたが、今回は外国人留学生に焦点をあてます。


2年ほど前、政府の教育再生会議にて2025年には受入れ留学生数を100万人にするという
「留学生100万人計画」を策定したり、昨年には文部科学省や関係省庁が中心となって
2020年を目途に「留学生30万人計画」を策定したりと、留学生受入れ人数についての
計画論をよく耳にします。

 
国内の外国人留学生数は昨年においては約12万人であり、アメリカに比べると日本は
その半数以下の受入れ人数となっているものの、1999年には5~6万人であった留学生数も、
たった4年程で倍の人数となる10万人を突破しました。
当時の景気や大学間交流の時流が拍車をかけたのかもしれませんし、その出身国の
内訳をみると約60%を占める中国のおかげとも言えるかもしれません。


この計画に沿って物事が進んでいくと、これからはよりいっそう言葉の問題や留学生の
就労に関する問題が浮上し、真正面から対応する事項が多々出てくるかもしれません。

気になる言葉の問題ですが、国際語として使用されている英語をはじめ、ビジネスでも
使用頻度が高くなっている中国語・韓国語等、様々な言語に堪能な日本人が増えることにより、
コミュニケーションがさらに円滑に進み、より日本を理解してくれる人が増えるでしょう。

ここで重要なことは、いかに日本側が工夫して留学生達の日本語教育を充実させるか?
という考え方かもしれません。自国と異なる言葉を理解することは、相手国を理解し
そこで生活するために必要な考え方や文化を理解することにつながると思います。


また就労面を考えると、現在の法律では留学生は原則就労できないことになっていて、
採用の際は、本人に対して資格外活動の許可を受けているか念のため確認することが
必要となります。在留資格が「留学」となっているため、就労そのものが資格外活動
とされるからです。

そして他にも労働時間の問題があります。バリバリ働いてもらいたいところですが、
学業が疎かにならないよう在留資格が「留学」の場合、1週間につき28時間以内という
ルールがあり意外と確認を忘れがちなのでご注意いただきたいと思います。
また労働保険・社会保険の適用についての誤解も多く、税金についても特定の相手国に
なりますが2国間の租税条約に基づいた届出によって所得税が免除されるケースが
あったりと、留学生の就労は確認するべき点が意外と多くあります。


昨年秋頃ですが、海外からの中国人留学生達の帰国熱が高まっているとのニュースが
報じられました。このようなニュースを見たり、政府の○○万人計画等を耳にすると、
日本に行きたいという動機付けのために何ができるか、そして日本に来たら
より日本を理解してもらうために何をしてあげて、そのとき法律と現実のギャップを
どうやって縮めていくかが、国際交流や国際貢献の真の難しさと言えるのかもしれません。

平成30年雇用関係助成金簡略版のご案内

新年度(平成30年度)になり、障害者の法定雇用率の引き上げが行われるなど、人事労務関連では法改正の施行に注目すべき時期になっています。雇用関係の助成金についても新設・変更等が情報公開され始めています。そして、これらの助成金の情報を掲載したリーフレットが更新され、平成30年版となりました。

内容を見る限り昨年と同様キャリアアップと育休関連がねらい目です。

以下よりダウンロードできますので、最新情報をチェックし、機会損失がないようにして頂きたいと思います。
↓「平成30年度 雇用・労働分野の助成金のご案内(簡略版)」のダウンロードはこちら

雇用関係助成金簡略版①
http://data.emono1.jp/uploader/2048/2018040316265328.pdf

雇用関係助成金簡略版②
http://data.emono1.jp/uploader/2048/201804031627193.pdf

第2回 なぜハラスメントって起こる?

え!?こんなことがハラスメントとして扱われるの!?
と前回ヒヤッと された方もいらっしゃったのではないでしょうか。
ハラスメントの代表とされる、「セクハラ」「パワハラ」は、いまや馴染みの深い言葉となり、
冗談交じりに「あ、セクハラ」と職場内でも聞こえてきます。


時期的に春と言えば、人事の異動があり、新入社員の入社する季節で、
不慣れな社員が職場に来て、上司あるいは先輩として接することが多くなって くるかと思います。


新しい人というのは、どこか気になるもので、 「大丈夫かな」「雰囲気に早く慣れるといいな」
など周囲の人が気にかける場面が多くあります。


ある時、直接関わりを持たない同じ部署内にいる係長が、
新人の女性社員の仕事ぶりが気になって、遠目にチラチラ見ていました。

当然職場の光景としてはよくある光景だと思います。

しかしながら、その女性社員は違った捉え方をしており、その視線が嫌で嫌で仕方なく、
不快感をあらわにし、ジロジロ見られていると思い込んで、

「セクハラではないでしょうか!?」

と別の上司に相談をしました。

その係長は特に何かをしたわけではないのですが、係長にすれば寝耳に水の話で、
危うく人事異動の対象になるところであり、その後のキャリアに影響が出るところ でした。

この係長なりに気を遣って、「今度飲みに誘うところだった・・・」そうで、
誘わなくて本当に良かったということを、後日談で聞きました。


ハラスメントかどうかは、受け手側の感情次第ですが、自分自身が曖昧な態度を
取ることは勘違いの原因となります。

かといって、職場に早く溶け込んでもらおうと質問攻めにすることも控えた方が良いでしょう。


趣味程度はともかくとして、休日は何をしているの?どの辺に出かけて買い物を しているの?
など、一歩間違えればストーカー!?となりそうな質問は、最初の頃は気を つけた方が良いでしょうね。


仕事の時間、プライベートの時間のメリハリをつけて、堂々と部下や同僚の前で
対応する姿勢を見せることが肝要です。

第2回 意思とは?表示とは?

今回のタイトルは、契約成立において重要な要素である「意思表示」を
2つに分解したものです。

前回、契約が「有効に成立している」とはどのような状態なのかについて
お話しました。契約の当事者の一方が約束を守らなかった場合に、裁判所という
国家機関がその力を持って契約内容の実現を助けてくれるということでしたね。

では、契約を有効に成立させるための条件とはどのようなものでしょうか?


雇用契約は、双方の意思の合致のみによって成立する契約(諾成契約)ですので、
契約書や役所への届出などが効力の発生要件ではありません。
例えば、応募者からの電話で「今日から働きたいです」「いいですよ」という
会話がなされた時点で、雇用契約は成立します。

ここでの応募者の意思(働きたい)と表示(働きたいと電話で伝える)は、
採用者の意思(働いて欲しい)と表示(いいですよと電話で応える)とで、
それぞれ合致しています。めでたく、契約成立です。

意思表示とは、文字通り「意思」と「表示」からなるものであり、その表示行為
に対応する意思(内心的効果意思)があることが大前提となります。

ところが、いつもこのように物事が単純に進まないのが、(人の)世の常です。
人間は、地球上で意思とは異なる表示行為をすることができる唯一の生き物
だからです。他の動物が「冗談」や「勘違い」をしだすと、大変なことになって
しまいます。しっぽを振ってすり寄って来た犬が、突然噛み付いてくるのを
あまり想像したくはありません。


話がそれました。元に戻します。


例えば、そもそも働く気がない応募者が電話で「今日から働きたいです」と
言いました。意思と表示が食い違っています。

これは意思表示として有効なのでしょうか?

民法において、このようなケースについての定めがあります。
「意思表示は、表示者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、
そのために効力を妨げられない」(心裡留保:民法93条)

つまり、そもそも働く気がない応募者からの「今日から働きたいです」という
意思表示は有効であり、それを信じて「いいですよ」と採用者が応えれば、
この場合も雇用契約は成立します。

ところが、この規定には続きがあります。

「ただし、相手方が表示者の真意を知り、または知ることができたときは、
その意思表示は無効とする」(心裡留保:民法93条 但し書き)

どういうことかと言いますと、採用者もその応募者に働く気がないことを
知って(知ることができて)いながら、「いいですよ」と応えた場合です。

いわゆる「冗談」です。

これは、契約における大原則である双方の意思と表示が合致していないから、
当然に無効という訳です。


このように、雇用契約が成立するためには、双方の意思と表示が有効に
合致していることが求められます。その背景には、民法が、すべての個人に
対して平等に意思活動の自由を保障する「個人意思自治の原則」が根底に
あるからです。

次回は、意思と表示が異なるもう一つのパターン「勘違い」について、
それがどのように契約形成に影響するのか、お話したいと思います。

第3回  アメリカの労働契約

アメリカ映画を見ていると登場人物が上司に「お前はクビだ!」
と言われるシーンがしょっちゅう出てきますが、
実際にそんなことをして問題にならないのかとちょっと不思議に思えます。
 
日本においては御存知の通り「使用者が労働者を解雇しようとする場合、
少なくとも30日前に予告をしなければならない」と労働基準法に定められていますが、
アメリカの場合はどうなのでしょう。

アメリカには一般的な雇用契約に随意雇用(employment at will)と言われるものがあります。
簡単にいえば「一定の期間前に予告すれば企業側も労働者も理由の有無にかかわらず、
いつでも解雇したり、 離職することが自由にできる権利を認めた雇用」ということです。

さすが自由の国、と言いたいところですが、実はそれほど自由というわけではなく、
このような雇用契約があると同時に公民権法第 第7編を始め州法などでは、
出自、人種、性別、宗教、年齢などを理由に解雇することを厳しく禁じています。

従ってそれらの差別があって解雇されたとなると、即座に法律違反だとして解雇された従業員は、
それらの法律を盾に会社を訴えるということが実に多いのです。
自由の国であると同時に訴訟の国でもあることをよく表していると いったところです。


さて日本では、政府がいわゆるアベノミクスの成長戦略の柱として国家戦略特区においける雇用規制緩和が
進められていたものの、
先日この「雇用特区」規制緩和については見送りとなりました。
とりわけ解雇についての反発は大きかったようです。

とはいえ日本における雇用慣行は国際的にも群を抜いて硬直していることは間違いないといえるでしょう。
事実、2012年世界経済フォーラムで労働者の採用と解雇のしやすさ関するランキングで
日本は144カ国中134位だったほどです。

業績の上がらない社員であっても簡単に解雇できず、解雇のルールが曖昧な日本が特殊なのか、
労働者保護という観点で配慮がないといえる アメリカが特殊なのか…
少なくとも実際に採用や解雇をドライに行うのは日本人にとっては難しいということだけは
言えるのではないでしょうか。


●次回はイギリスの労災保険を取り上げる予定です。

第1回 改めて雇用契約とは?

労働基準法はあくまで「基準」であり、
労働契約法はわずか19条(今後に期待です)、依然として契約原則を
参照するのはやはり民法(全1044条)になるかと思います。


そこで民法の視点から見て、
雇用契約の各ステージにどのように作用するのか検証してみたいと思います。


憲法が国家と国民との間について定めたものであれば、民法は国民と国民
(法律用語では私人間)との間について定めた法律です。社会には、様々な法律が
ありますが、民法は人が生まれてから死ぬまでのあらゆる段階に関わってくる
ものです。ですので、1000を超える条文があり、おそらくどの法律よりも身近に
感じる、まさに「民の法律」なのです。


▼民法の雇用契約の定義


「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに
対してその報酬を与えることを約する」(民法623条)

つまり、働いてくれる代わりに(対価として)お給料を支払いますよということを
お互いに約束するということでしたね。


例えば、1カ月間一生懸命に働いて、待ちに待った給料日に自分の口座に
お給料が振り込まれていなかったとしたらどうでしょう?


お互いに約束した内容がきちんと守られなかった場合、一方の当事者はいったい
どうすればよいのでしょうか?


ここで、登場するのが私人間について定めた民法なのです。

「債務者がその債務を履行しないときは、債権者はこれによって生じた損害賠償を
請求することができる」(民法415条)

この場合の債権者とは労働者で、給料をもらう権利(賃金債権)を持っており、
逆に債務者とは使用者で給料を支払う債務を負っているということです。

労働者は裁判所に給料の支払いを求めて使用者を訴えることができます。
そこで労働者の言い分が認められれば、裁判所は使用者に給料の支払いを
命じることになります。

仮に、この裁判所の判決(支払命令)にも従わず、尚、給料を支払わなければ、
使用者の財産を強制的に差し押さえることができます。(民法414条)


契約が「有効に成立」しているというのは、このように、契約の当事者の一方が
約束を守らなかった場合に、裁判所という国家機関がその力を持って契約内容の
実現を助けてくれるということです。


雇用契約において、賃金の支払いは最も重要な要素なので、労働基準法にも
その定めがあります。賃金の未払いの度に、都度裁判などしてはいられない
ですから、民法(一般法)より効力の強い特別法で賃金の支払いについて
その強制力を持たせているのです。

このように、民法からみた雇用契約の一般原則を知ることにより、労働基準法
などの特別法の存在意義についても理解が深まってくるかと思います。

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